韓国社会を揺るがす「36週中絶」事件:院長と執刀医の逮捕、その波紋と議論

はじめに:韓国を揺るがす36週中絶事件
皆さんは、韓国で妊娠36週目の中絶手術を巡って社会が大きく揺れていることをご存知ですか?2024年6月、20代の女性ユーチューバーが自身の36週目中絶体験を動画で公開したことをきっかけに、韓国社会は衝撃と議論の渦に包まれました。その後、手術を担当した病院の院長と執刀医が2025年6月に逮捕され、「証拠隠滅の恐れ」があるとして裁判所が勾留を認めました。この事件は、韓国の中絶法や医療倫理、そしてオンラインコミュニティの反応など、さまざまな側面から注目を集めています。
事件の経緯:YouTube動画から警察捜査、そして逮捕へ

2024年6月末、ある女性ユーチューバーが「妊娠36週で中絶手術を受けた」と告白する動画を投稿。動画は瞬く間に拡散し、世論の大きな関心を集めました。保健福祉部は直ちに警察へ捜査を依頼し、ソウル警察庁が本格的な捜査に乗り出します。病院への家宅捜索では、胎児の火葬証明書や死産証明書などの資料が押収されました。2024年10月には一度逮捕状が棄却されましたが、追加の証拠収集や事情聴取を経て、2025年6月に院長(80代)と執刀医(60代)が殺人などの容疑で逮捕されました。
法的グレーゾーン:韓国の中絶法と社会的混乱
韓国では2019年の憲法裁判所判決により、中絶罪が事実上無効化されましたが、明確な新法が制定されていないため、法的空白状態が続いています。母子保健法では24週以降の中絶は禁止されていますが、刑事罰は存在しません。今回の事件では、胎児が36週であり、生存可能な段階だったことから、医療スタッフには殺人容疑が適用されています。この法的曖昧さが、医療現場や当事者をより不安定な立場に追い込んでいるのです。
警察捜査の詳細と新たな事実
警察の捜査により、同じ病院で数百人規模の妊婦が中絶手術を受けていた可能性が浮上しました。執刀医は他院から招かれ、仲介業者も関与していたことが判明。さらに、手術室に義務付けられているCCTV(監視カメラ)が設置されていなかったことも違法とされました。医療記録によると、胎児は健康で、出産後も生存可能だったとされ、これが殺人容疑の根拠となっています。
ネットコミュニティの反応:怒りと共感、そして分断
韓国の主要コミュニティ(Theqoo、Nate Pann、Instiz、Naver、Daum、DC Inside、FM Korea、PGR21)には、事件に対するさまざまな声が投稿されています。「36週で中絶は殺人だ」「法律が曖昧すぎる」「女性も医師も責任を取るべき」といった厳しい意見が多い一方、「事情を考慮すべき」「国家が個人の選択に介入しすぎ」という共感や疑問の声も見られます。社会の分断が浮き彫りになっています。
メディア・ブログの報道と論点
韓国の主要メディア(朝鮮日報、韓国日報、連合ニュース、MBC、TV朝鮮、Heraldcorp)や、NAVER・Tistoryなどのブログでも本件は大きく取り上げられています。報道では、逮捕の異例性や法的な不透明さ、医療倫理の是非が繰り返し論じられています。NAVERやTistoryのブログでは、医師や女性への非難、妊婦支援の必要性、法改正の遅れなど、多様な意見が飛び交っています。あるTistoryブログでは「この事件は個人の問題を超え、社会全体の倫理と法のあり方を問うものだ」と指摘されています。
文化的背景:なぜ韓国でこれほど大きな波紋が?
韓国では長年、中絶が厳しく規制されてきましたが、現実には黙認されることも多く、2019年の憲法裁判所判決後も法整備が進んでいません。今回の事件は、女性の自己決定権、胎児の生命権、医療現場の責任といったテーマが複雑に絡み合い、社会的な対立を一層深めています。インフルエンサーの発信力やデジタル社会の拡散力も、この議論をより大きなものにしています。
今後の展望:法改正と社会的癒しへの課題
事件は現在も裁判が続いており、政府には明確な法整備と社会的支援の充実を求める声が高まっています。医療現場からはガイドラインの明確化、女性支援団体からは包括的な性教育と妊婦支援の強化を求める声も。今後の判決や法改正は、韓国社会における生命・選択・正義のあり方に大きな影響を与えるでしょう。
まとめ:韓国社会の分岐点
36週中絶事件は単なる刑事事件にとどまらず、韓国社会が伝統・現代・人権の間で揺れ動く姿を象徴しています。今後の展開を見守るとともに、社会全体で命と選択、そして正義について深く考える契機となるでしょう。