韓国で衝撃判決：新堂駅ストーキング殺人事件、ソウル交通公社の責任認定

韓国社会を震撼させた新堂駅事件の新たな展開

皆さんは韓国で最も衝撃的な職場内ストーキング事件をご存知でしょうか？2022年9月14日に発生した新堂駅ストーキング殺人事件が、2025年7月16日に新たな法的転換点を迎えました。ソウル高等法院が、1審で責任なしとされたソウル交通公社に対し、被害者の両親への損害賠償を命じる判決を下したのです。

この事件は、ソウル交通公社職員の全周煥（34歳）が、同期入社の女性職員を地下鉄2号線新堂駅の女性用トイレで殺害したという痛ましい事件でした。全周煥は以前からその女性をストーキングしており、告発されて裁判中でありながら、職位解除されていたにも関わらず、会社の内部ネットワークにアクセスして被害者の勤務地情報を確認し、計画的に犯行を行いました。

被害者の遺族は、公社が全周煥の管理・監督義務を怠り、個人情報へのアクセスを遮断せず、被害者への保護措置を取らなかったとして、総額10億ウォンの損害賠償訴訟を起こしていました。しかし、1審では公社の主張が受け入れられ、予測不可能な犯行として公社の責任は認められませんでした。

1審から2審へ：法廷の判断が180度変わった理由

2024年8月、ソウル中央地方法院は公社の主張を受け入れ、加害者が被告のシステムを通じて被害者の位置を確認できた点は遺憾だが、犯行自体は急激で例外的なものとして、使用者に予見可能性があったとは見難いとの理由で、遺族の請求をすべて棄却しました。この判決は被害者の家族にとって非常に失望的なものでした。

しかし、2025年7月16日、ソウル高等法院民事3-3部は劇的にこの判決を覆しました。裁判部は公社は職場内ストーキングリスクに対する事前対応と情報管理体系を整備すべきだったとして、被害者の両親にそれぞれ500万ウォンずつ賠償するよう判決しました。総額1000万ウォンの賠償命令です。

控訴審裁判部は、ストーキング告発と刑事裁判が進行中だった状況で、加害者が内部ネットワークを通じて被害者情報を確認した状況は、公社側の管理責任の不在と関連があると判断しました。これは韓国の法廷で職場内ストーキング防止に関する使用者の責任を認めた画期的な判決として評価されています。

計画的犯行：会社システムを悪用した殺人事件の真相

全周煥の犯行は決して衝動的なものではありませんでした。彼は2019年から約3年間、被害者に対して300回以上の電話とメッセージによるストーキングを行っていました。被害者が2021年10月に不法撮影などの容疑で告発した後も、合意を理由に継続的に連絡を取り続けていたのです。

特に問題となったのは、全周煥が職位解除されていたにも関わらず、ソウル交通公社の内部ネットワークにアクセスできる状態が続いていたことでした。2022年8月から事件発生まで、彼は会社のイントラネットに複数回アクセスし、被害者の勤務スケジュールや位置情報を収集していました。これにより、被害者の行動パターンを把握し、計画的に犯行を準備したのです。

事件当日、全周煥は証拠隠滅のためにシャワーキャップを準備し、凶器を持参して新堂駅に向かいました。そして1時間10分以上被害者を待ち続けた後、女性用トイレで殺害したのです。この計画的な犯行と会社システムの悪用が、控訴審で公社の責任を認める重要な根拠となりました。

韓国ネットコミュニティの激しい反応と社会的議論

この事件は韓国のオンラインコミュニティで激しい議論を巻き起こしました。ネイバーやダウムなどの主要ポータルサイトのコメント欄では、職場内ストーキングに対する企業の責任について様々な意見が交わされました。特に女性ユーザーからは職場での安全に対する不安の声が多く聞かれました。

DCインサイドやPGR21などのコミュニティでは、1審判決に対する批判が殺到していました。多くのユーザーが会社が職位解除된直員の内部システムアクセスを許可していたことを問題視し、これは明らかな安全管理の失敗だとの意見を示しました。そして控訴審判決が出た後には、遅きに失したとはいえ正当な判決だという反応が多く見られました。

特に印象的だったのは、韓国の女性たちが この事件を2016年の江南駅殺人事件と比較して論じていたことでした。地下鉄駅という公共空間での女性に対する暴力が繰り返されることに対する深い憂慮と怒りが表現されていました。また、職場内でのストーキングが最終的に殺人に至ったという点で、職場の安全対策の重要性を強調する声も多く聞かれました。

韓国の法的変化：ストーキング犯罪に対する新たな解釈

この判決は韓国の法廷でストーキング犯罪に対する解釈が大きく変化していることを示しています。従来、使用者は直接的に予見可能な犯罪についてのみ責任を負うとされていましたが、今回の判決では予見可能性と注意義務の範囲が拡大解釈されました。

韓国のストーキング処罰法は2021年10月に施行されたばかりで、それまでストーキングは単なる軽犯罪として85ドル以下の罰金で処罰されていました。新法では最高3年の懲役刑まで可能になりましたが、被害者保護には依然として限界があると批判されていました。

法曹界では、この判決変化が職場内ストーキングと報復犯罪に対する使用者の責任認識が強化される流れと一致していると分析しています。特に新堂駅事件は、犯行手段の相当部分が組織内部システムに由来していたという点で、組織が被害者を保護し、加害者のアクセスを遮断したかどうかが判断の核心争点となりました。2023年の警察統計によると、7,000人以上のストーキング容疑者が検挙されており、このような犯罪が持続的な脅威となっていることが分かります。

日本との比較：両国のストーキング犯罪対策の違い

興味深いことに、韓国のメディアでは新堂駅事件をしばしば日本のストーキング事件と比較して報道していました。特に2022年12月にJTBCで放送された番組では、新堂駅事件を日本版新堂駅事件と呼ばれる桶川ストーキング殺人事件と比較分析していました。

両事件の共通点として、加害者が拘束されなかった後に犯行強度が高まったこと、警察と検察の緩い措置が犯行の機会を提供したことが指摘されました。しかし、韓国では新堂駅事件をきっかけに、ストーキングが軽犯罪から重犯罪に分類され、被害者を保護できる多様な法律が制定されたという点で、一定の進展があったとも評価されています。

日本の読者にとって理解しやすい文脈で説明すると、韓国の伝統的な階層的職場文化と、歴史的に女性に対する保護が弱かった状況が、ストーキングや嫌がらせが制御なく繁栄する環境を作り出していました。この事件は、そのような文化的背景の中で発生した悲劇として理解されています。最近の韓国女性たちは、嫌がらせや暴力のない安全な職場環境をますます要求しており、この判決はそのような社会的要求を反映したものと見られています。

未来への影響：韓国社会の安全意識変化と法的先例

この判決は韓国社会の職場安全に対する意識変化を象徴的に示しています。ソウル交通公社労働組合は、会社が女性労働者を保護しなかったことを批判し、被害者が既知の安全リスクにも関わらず一人で駅を巡回しなければならなかったことを指摘しました。これは韓国の労働環境における性別基盤暴力の問題を浮き彫りにしました。

ソウル交通公社は現在、控訴審判決を検討した後、上告するかどうかを決定する予定です。もしこの事件が大法院まで進行すれば、ストーキング犯罪と職場内安全義務の法的基準を確立する重要な先例になる可能性があります。これは新堂駅事件を単なる悲劇ではなく、韓国社会が職場暴力の潜在的被害者を保護する方法の根本的変化の触媒にする可能性があります。

全周煥は最終的に2023年10月に大法院で無期懲役が確定されました。被害者の家族は彼らの弁護士を通じて、全周煥の無期懲役刑の維持が他の多くのストーキング犯罪被害者に意味のあるメッセージを伝えるだろうと述べました。初期の敗訴にも関わらず、ソウル交通公社に対する民事訴訟を継続した彼らの粘り強さが、最終的に使用者責任に関するこの画期的な判決につながったのです。この判決は、韓国の職場安全基準と企業の責任範囲を再定義する重要な転換点となることが期待されています。