韓国大統領選最終討論会が大荒れ:政策論議より人身攻撃が横行、民主主義の質が問われる

May 28, 2025
政治
韓国大統領選最終討論会が大荒れ:政策論議より人身攻撃が横行、民主主義の質が問われる

最後の討論会が示した韓国政治の現実

2025年5月27日午後8時、ソウル麻浦区のMBCスタジオで開催された第21代大統領選挙第3回テレビ討論会は、6月3日の投票日を1週間後に控えた最後の公式討論として注目を集めた。共に民主党の李在明候補、国民の力の金文洙候補、改革新党の李俊錫候補、民主労働党の権栄国候補の4人が、政治改革・憲法改正・外交安保政策をテーマに2時間にわたって激論を交わした。

しかし、建設的な政策論議を期待していた有権者たちは大きく失望することになった。候補者たちは国家の未来ビジョンを提示するよりも、相手候補への人身攻撃と過去の疑惑の蒸し返しに終始したからだ。特に李在明候補の過去の障害者差別発言、金文洙候補の尹錫悦前大統領との関係、李俊錫候補の戒厳令当夜の行動などが争点となり、討論会は「史上最悪の乱闘戦」と評される事態となった。

中央選挙管理委員会が主催するこの討論会シリーズは、第1回(経済分野)が視聴率19.6%、第2回(社会分野)が18.4%を記録し、1997年にテレビ討論が導入されて以来初めて20%を下回る結果となった。この数字は、韓国の有権者が政治討論の質の低下に辟易していることを如実に示している。

李俊錫候補の集中砲火と李在明候補の反撃

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討論会の序盤から、李俊錫候補は李在明候補に対する激しい攻撃を展開した。特に李在明候補が過去に行った障害者差別発言について「障害者を侮辱する発言をしたことを謝罪せよ」と迫り、さらに「国政監査で野党議員の資料を『破り捨てる』と発言したことについても説明せよ」と追及した。李俊錫候補は「一方的な処理」という表現を使って李在明候補の国会運営を批判し、討論会の雰囲気を一気に険悪なものにした。

これに対して李在明候補は、李俊錫候補の戒厳令当夜の行動を問題視して反撃に出た。「なぜ戒厳令の夜に国会の塀を越えなかったのか」と質問し、「その夜、あなたは家に帰ってシャワーを浴びて着替えをしていたのではないか」と厳しく追及した。李在明候補は「戒厳令解除の投票に参加するために国会に駆けつけるべきだったのに、なぜ来なかったのか」と繰り返し問いただし、李俊錫候補の民主主義への姿勢を疑問視した。

この攻防は討論会のハイライトとなったが、同時に両候補の品格を損なう結果ともなった。政策論議よりも個人攻撃が優先される状況に、多くの視聴者が失望を表明した。

金文洙候補の戦略と尹錫悦前大統領の影

金文洙候補は討論会を通じて「反李在明」戦略を明確に打ち出した。李在明候補の双方蔚疑惑、法人カード不正使用疑惑、周辺人物の死亡事件などを次々と持ち出し、「裁判を中断させるな」と強く迫った。金文洙候補は映画『阿修羅』を引用して李在明候補の政治スタイルを批判し、「清廉で堂々とした人生を歩んできた」自身との対比を強調した。

しかし、金文洙候補にとって最大の難題は尹錫悦前大統領との関係をどう整理するかだった。李在明候補から「戒厳令・弾劾に対する立場を明確にせよ」と迫られた金文洙候補は、「憲法裁判所の決定に従って弾劾は有効だと考える」としながらも、「手続き上の瑕疵があった」と微妙な表現で答弁した。また、内乱罪については「ソウル中央地裁での裁判が終わってから判断すべき」として明確な立場表明を避けた。

李在明候補は金文洙候補を「尹錫悦のアバター」と呼んで攻撃し、尹錫悦前大統領との関係断絶と謝罪を要求した。この攻防は保守陣営が戒厳令事態の後遺症から完全に脱却できていない現実を浮き彫りにした。

憲法改正論議と政治改革の方向性

政治改革と憲法改正に関する討論では、各候補が異なる方向性を提示した。李在明候補は「戒厳令要件の強化、大統領拒否権の制限、国務総理の国会推薦制、4年連任制への改憲」を公約として掲げた。これは尹錫悦前大統領の戒厳令事態を受けて、大統領の権限を制約し民主主義を強化しようとする試みだった。

金文洙候補は4年重任制を主張し、さらに今回当選する大統領の任期を3年に短縮すべきだと提案した。これは李在明候補の改憲案から任期短縮を事実上排除していることを批判し、改憲意志の真正性を問題視するものだった。李俊錫候補はフランスのマクロン大統領を例に挙げて「自分が憲法改正を主導するのに最も適した候補」だと主張した。

権栄国候補は「差別禁止、労働・農業分野の変化、気候変動対応」を盛り込んだ憲法改正を提案した。しかし、これらの多様な改憲案についての深い論議は行われず、表面的な公約発表に留まった。韓国政治制度改革の優先順位についての国民的合意が不足していることが明らかになった。

外交安保政策の根本的な対立

外交・安保分野では、候補者間の根本的な世界観の違いが露呈した。李在明候補は「韓米同盟を韓国外交の基盤としながらも、実質的で未来志向的に発展させる」と述べ、「独自のミサイル防衛システムに基づく韓国の防衛」を強調した。また、「中国やロシアとの関係も軽視せず、朝鮮半島の平和と安定のために努力する」として均衡外交の重要性を訴えた。

金文洙候補は「金正恩政権の核・ミサイル挑発に対する断固たる対応」を主張し、「韓米同盟に基づく核抑止力強化」を通じて「いかなる脅威にも揺るがない国家建設」を約束した。また、トランプ大統領が要求する場合、防衛費分担金の引き上げも検討できると表明した。

李俊錫候補は李在明候補のTHAAD撤回主張を批判し、「李在明が大統領になれば米国入国拒否される可能性もある」と極端な表現で攻撃した。権栄国候補は「北朝鮮との共存」を主張し、「国家情報院防諜事業部の廃止」を提案して他の候補たちと明確に差別化を図った。

討論会制度の構造的問題と改革の必要性

今回の討論会が示した最大の問題は、現行の討論会制度そのものの限界だった。中央選挙管理委員会が規定する3回の討論会は各2時間で、自由討論時間は候補1人当たりわずか6分30秒に制限されている。この短い時間では深い政策論議は不可能で、候補者たちは表面的な攻撃や防御に終始せざるを得ない構造になっている。

また、支持率1~2%の候補と30~40%の候補が同じ発言時間を持つ現行制度も問題視されている。参加基準を引き上げて実質的な支持を受ける候補に焦点を当てることで、討論の質を向上させるべきだという指摘が出ている。司会者の役割も時間管理に限定されており、米国の大統領討論のように積極的に質問を投げかけて実質的な答弁を引き出す権限がない。

政治学者たちは「討論会の回数と時間の拡大、候補者間の直接対決形式の導入、司会者や政策専門家の質問権限強化」などの改革案を提示している。現在の機械的平等主義では、民主主義に必要な実質的な政策検証が不可能だというのが専門家たちの一致した意見だ。

有権者の失望と民主主義への警鐘

3回にわたる討論会が終了した時点で、多くの有権者は深い失望感を表明した。国内外の危機克服のための解法とビジョン、国政遂行能力を確認したかった有権者たちは、代わりにネガティブ攻防と人身攻撃ばかりを目撃することになった。中国の製造業追い越し、米国発の安保・通商環境変化、内需不振と経済成長率鈍化など急変する内外情勢に対する候補者たちのビジョン提示が不足していたという指摘が相次いだ。

新成長経済研究所の崔炳天所長は「トランプ時代の保護貿易主義対策、韓米造船業・防衛産業協力、台湾海峡問題が争点として浮上した状況で、候補4人のこれに関連した討論が不足していた」と指摘し、「国際情勢が激動する状況で候補者たちが政治工学的討論に偏重した側面がある」と評価した。

6月3日の選挙まで1週間を切った状況で、有権者たちは正式な討論過程が実質的な政策比較を提供することに失敗したという失望的現実に直面している。合理的投票を促進するはずだった討論会が、むしろ解決しようとしていた政治分極化に寄与する結果となった。これは韓国民主主義の質的向上のために、討論会制度の根本的改革が急務であることを示している。

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