韓国不動産仲介士、契約書署名なしで資格停止処分「当然」…裁判所判決の波紋

皆さんは韓国の不動産仲介士がどれほど厳格な規制下にあるかご存知でしょうか?
最近、韓国で注目を集めている法廷判決があります。それは、不動産契約の仲介業務を完璧に遂行したにも関わらず、契約書への署名を怠った公認仲介士が資格停止処分を受けた事件です。この判決は、韓国の不動産業界における責任の重さと、手続きの厳密さを物語っています。
ソウル行政裁判所行政13部(部長判事チン・ヒョンソプ)は、A氏がソウル特別市長を相手に提起した公認仲介士資格停止処分取り消し訴訟の1審で、原告の請求を棄却し敗訴判決を下しました。この判決は、韓国の不動産取引において「手続きの完璧性」がいかに重要視されているかを示す象徴的な事例となっています。
事件の概要を見てみると、2023年5月にB氏が不動産仲介事務所の所属公認仲介士として勤務していたA氏に不動産チョンセ契約の仲介を依頼しました。A氏は仲介対象物を案内し、B氏とC氏はチョンセ契約を締結しました。しかし、ここで問題となったのは、A氏が所属公認仲介士として契約書および仲介対象物確認・説明書に署名・捺印を行わなかったことです。
韓国の公認仲介士法第25条第4項および第26条第2項によれば、仲介業務に従事する公認仲介士は必ず関連書類に署名・捺印することが義務付けられています。この規定は、取引の透明性と責任の所在を明確にするための重要な制度的装置として機能しています。
韓国不動産業界の厳格な規制システムとは

韓国の不動産業界は、世界でも類を見ないほど厳格な規制システムの下で運営されています。2025年現在、宅地建物取引業法施行規則の改正により、さらに厳しい監督体制が構築されています。特に注目すべきは、1月1日に施行された「囲い込み」防止のためのレインズ登録事項の追加や、4月1日に施行された業者票の記載事項変更などです。
これらの改正は、不動産売買仲介における取引の透明性向上とデジタル化推進を目的としています。従来の紙ベースの契約から電子契約への移行も加速しており、2022年の法律改正により不動産取引の電子化が全面的に解禁されました。しかし、電子契約化が進む中でも、署名・捺印の義務は変わらず重要な要素として残っています。
不動産業における行政処分の種類を見ると、指示処分、業務停止命令、免許取消処分の3段階があります。今回のA氏のケースは、業務停止命令に相当する処分で、通常1週間から6ヶ月程度の停止期間が設けられます。業務停止期間中は、既存の契約処理は可能ですが、新たな契約締結や広告活動はできません。
東京都でも2025年6月に複数の宅地建物取引業者に対する行政処分が発表されており、不動産業界全体で規制の厳格化が進んでいることが分かります。これは、消費者保護と市場の健全性を維持するための重要な取り組みです。
A氏の主張と裁判所の判断の対立点
A氏は自身の行為について複数の論点から異議を申し立てました。まず、「仲介業務の未完成」を主張し、B氏に仲介対象物を案内した後、文字メッセージで仮契約書を送っただけで、当該チョンセ契約に関連して仲介報酬を受け取った事実もないため、仲介行為が完成したとは見なせないと述べました。
さらに、A氏は「処分の不均衡性」を訴えました。仲介行為を通じて何らの利得も得ていない点、所属公認仲介士に過ぎず開業公認仲介士の指示に従って業務を遂行したにも関わらず、同じく3ヶ月の資格停止を受けた点などを挙げ、この処分は裁量権を逸脱・濫用したものだと主張しました。
しかし、1審裁判部はA氏の主張を受け入れませんでした。裁判部は、A氏がB氏に仲介対象物を直接紹介し、チョンセ契約が成立・締結できるよう仲介業務を遂行したと判断しました。特に重要な判断基準となったのは「社会通念」でした。
裁判部は「原告が当該チョンセ契約締結当日に契約書を直接作成しなかったとしても、社会通念上、原告の斡旋および仲介を通じて取引が最終的に成就したと認識するに十分な行為が持続的に行われた以上、仲介行為は完成したと見るのが妥当である」と説明しました。この判断は、形式的な手続きだけでなく、実質的な仲介活動の評価も重要であることを示しています。
韓国ネットユーザーの反応と業界への影響
この判決に対する韓国のネットユーザーの反応は二分されています。ネイバーやダウムなどの主要ポータルサイトでは活発な議論が展開されており、「法的義務を怠った以上、処分は当然」という厳格派と「実質的な損害がないのに処分が重すぎる」という寛容派に分かれています。
特にネイバー不動産カフェでは「これだから韓国の不動産取引は複雑なんだ」「でも消費者保護のためには必要な規制」といった意見が交わされています。また、業界関係者からは「所属仲介士の立場が不安定になる」「上司の指示でも個人責任を問われるのは不公平」という懸念の声も上がっています。
一方で、消費者保護団体からは「契約書への署名は責任の所在を明確にする重要な手続き」「たとえ報酬を受けていなくても、専門家としての義務は果たすべき」という支持の声も聞かれます。
この判決が業界に与える影響は少なくありません。まず、所属仲介士の教育・訓練がより強化される見込みです。また、事務所内での業務フローの見直しや、電子契約システムの導入加速も予想されます。不動産仲介業者は、形式的な手続きの遵守をより重視する方向にシフトしていくでしょう。
チョンセ制度と仲介士の責任の重さ
今回の事件で問題となったチョンセ契約は、韓国独特の賃貸システムです。借主が多額の保証金を預けて月々の家賃を支払わない代わりに、貸主は預かった保証金を運用して収益を得る仕組みです。この制度では、保証金の額が非常に大きく(通常数千万円から数億円)、契約の安全性が極めて重要になります。
チョンセ契約における仲介士の役割は、単なる物件紹介に留まりません。物件の法的状況確認、保証金返還能力の審査、契約条件の調整など、専門的な知識と経験が要求される複雑な業務を担当します。そのため、仲介士の署名・捺印は「専門家としての責任を負う」という意味で極めて重要な行為とされています。
近年、チョンセ詐欺事件が社会問題化していることも、仲介士への規制強化の背景にあります。悪質な貸主による保証金持ち逃げ事件や、虚偽の物件情報による被害が相次いでおり、仲介士の責任がより厳格に問われるようになっています。
この状況下で、今回の判決は「たとえ報酬を受け取らなくても、仲介業務に関与した以上は法的責任を負う」という明確なメッセージを送ったものと解釈されています。これは、韓国の不動産市場の信頼性向上に向けた重要な一歩と評価する声もあります。
日本との比較で見る韓国不動産規制の特徴
日本の宅地建物取引士制度と比較すると、韓国の公認仲介士制度の特徴がより明確になります。日本では、宅地建物取引士が重要事項説明書や契約書に記名押印することが義務付けられていますが、所属宅建士の個人責任がここまで厳格に追及されることは稀です。
日本の場合、宅建業者(会社)の監督責任がより重視される傾向にあり、個人の宅建士に対する処分は比較的限定的です。しかし、韓国では個人の公認仲介士に対する責任追及がより直接的で厳格に行われています。これは、韓国の法体系と社会的責任観の違いを反映していると言えるでしょう。
また、電子契約の普及状況も両国で異なります。日本では2022年から不動産取引の電子化が本格化していますが、韓国の方が電子化への移行がより積極的に進められています。しかし、両国共に「署名・捺印の法的意義」は電子化の中でも重要な要素として維持されています。
今回の判決は、韓国の不動産業界における「個人責任の重視」と「手続きの厳格性」を改めて確認させるものでした。これは、日本の不動産業界関係者にとっても、隣国の規制動向を理解する上で重要な参考事例となるでしょう。グローバル化が進む中で、各国の不動産規制の相互理解と学習はますます重要になっています。
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